金澤敏明氏の対局からその巧みな戦術を紐解く

戦術解剖 金澤敏明氏

金澤敏明氏の将棋戦術

金澤敏明氏の略歴

 

生年月日:昭和50年12月3日(40歳)
出身:埼玉県川越市
血液型:A型
趣味:釣り、ラーメン、読書
対局戦歴:ローカル戦143戦112勝32敗(2007年〜)
得意戦術:振り飛車(よく多用しているのは四間飛車)
特徴:振り飛車や居飛車の本格派。最近のセオリーや定跡には惑わされない剛直な棋風で人気を博す棋士。この界隈では羨望の的になっている。特に序盤戦に強く先読み技術も高く、さらには長考が少なくスピーディーな傾向がある。
略歴:大学より伊藤流将棋研究会に所属。小学校、中学校と地域の将棋大会へ積極的に参加し身近に触れていたこともあって大学時代に一気に頭角を現す。地域で行われる恒例の大会では歴代1位の優勝回数を誇る伊藤流のエース的存在。同大学の将棋サークル卒には澤村明憲、内藤光義、金井管史らが居る。

 

2013以降の金澤敏明氏の過去実績
トーナメント  2013 2014

睦月杯(※2015の結果)

3位 優勝
如月杯 準優勝 準優勝
弥生杯 欠場 2回戦敗退
卯月杯 欠場 4位(3位決定戦で小島に敗退)
皐月杯 3位(3位決定戦木村正一に勝利) 準優勝(山下敏子に決勝敗退)
水無月杯 準優勝 準優勝
文月杯 初戦敗退 2回戦敗退
葉月杯 3位 優勝(森下秀朗に勝利)
長月杯 欠場 初戦敗退
神無月杯 2回戦敗退 準優勝
霜月杯 準優勝 初戦敗退(鈴木遥一に敗北)
師走杯 準優勝 優勝

 

上記のとおり伊藤先生のはじめた毎月定例戦では若手の当時から抜きん出た才能と実力、多彩な業と戦局眼を持つ。
アマ2段となるまで圧倒的な勝率を誇り、他の実力者すら寄せ付けない強さだった。
昨年も全てのトーナメントに参加し3回の優勝と準優勝4回という好成績で締めくくっている。
そんな彼も今年で四十路。一昨年に結婚をし、社会人生活とアマ将棋士としての二束のわらじ人生を歩むようになり方向転換。節目を迎えている。
澤村ら同郷同サークルOBメンバーらと共に地域の将棋をひっぱる存在として活躍している。
得意とする戦術はこのコラムで注目している振り飛車だが、先読みする技術や、美しい矢倉の技術などは彼にしかできないと周囲が嘆くほどに鮮やかである。
隔月で催される定例親善杯では優勝を重ね常に"金澤敏明流将棋"を貫き観衆を沸かせている。

 

台頭勢力成長のために金澤敏明の強さを分析

 

多彩な戦術で中堅の年代ながら百戦錬磨のシニア世代からも連勝を重ねる金澤敏明氏。
中でも得意とする振り飛車からの戦術を丸裸に分析することで彼の弱点を探ることを試みる。

 

もちろんその他においても一般的な手法戦術との違いやポイントなる指し手を洗い出し、攻略の糸口を探ろうと思う。

 

金澤敏明氏の戦術は、相振り戦で出現頻度が非常に高い対△三間飛車と△向かい飛車においての先方を後手の囲い(穴熊・美濃・矢倉)等を有効な戦術としている。尚、初手▲5六歩と指した際、後手も振り飛車党だと『相中飛車』も想定すべきであるが、その旨はおって〔力戦中飛車編〕にて解説を行う。

 

対穴熊では端攻めを根底に考えなければならない。
対△三間飛車 穴熊囲い〜▲9五歩迄。
△2四歩には▲2二角成〜7七桂〜7四歩〔突き捨ての歩〕〜8五桂から端攻め。△2四歩に換え△4四歩と角換えができない際には▲9七桂〜8五桂と▲2六飛を含みとしている。

 

開始序盤戦での局面を優位とするため戦術を多く多用しているが、対△三間飛車・△向かい飛車共に先手は▲7七角〜▲6八(7八)銀〜6七銀としてから▲8八飛と向かい飛車にしているが、銀上がりを省き▲7七角ののちに直接▲8八飛と回ってから▲6八銀とする事が多い。

 

この型は▲6七銀上がりを持ちこす事で、セオリーより1手早く▲6五歩と突くのがおそらくの狙いである。▲向かい飛車は△三間飛車より角換えに有効。そして△7七角成▲同桂の場面では6八の銀が桂馬に紐をつけているため、浮き駒が発生しないということも利点として挙げられるだろう。リスクとして開幕時の数指しでリスクケアをしなければならないが金澤敏明氏は初手からこの戦術を見据えている。

 

また金澤敏明氏は△向かい飛車に局面し、矢倉から▲5六銀の腰掛銀のかまえを造り、早々に▲7五歩を指して後手の矢倉を封じる戦法。それから後手が2筋の歩を持ちこし△4四歩〜4二銀とする場面では▲6五歩から下ろさず最初に▲6八飛と廻って飛車や角を用いる戦術も有効としている。

 

開幕序盤戦に対戦相手の出方を見極め、機敏に躍動し主導権を握るのは金澤敏明氏のオハコであり、これを解説するのは容易である。

 

「対戦者が飛車を振った、それを踏まえた金澤敏明氏は自分の囲いを決め、対戦者が飛車を振りなおす想定や対戦者が浮き飛車にするなども考慮した戦術をとっている。
そこから自陣の防御を上げ、引き飛車、さらに自陣の防御壁を下げるなど。

 

相振り飛車を指すことにおいて、基礎となる金澤敏明氏の思想や攻防面のトータルケアバランス、数手先を見据え優位に指し手を進める近年流行りの立ち回りをあらゆる面から解析した考察をしていく。

 

若き頃三十路前の金澤敏明棋士

金澤敏明の若かりし時代の手癖

 

金澤敏明氏の対局を観戦し始めて半年以上が経過した2010年ごろ。まだ当時20代後半という若さだったにも関わらず、年配の対局者を翻弄している姿を初めて目の当たりにして並々ならぬ若者が現れたと感心したものだった。そのころに観かけて印象的だったシーンを局面で振り返ってみたいと思う。

 

先手金澤敏明氏が▲6九金に一旦引いた局面。6八に在った金を易々と引く指し手は完璧な手待ち状態で作戦勝ちであった。△3五桂▲4五歩△3八飛▲同桂△同桂成▲4三歩△同金▲2九飛。

 

金澤敏明氏は△3五桂を打った。
間違いなく風車で見かける戦術で常套戦術ではあるであろうが少しタイミングがどうなのかと思うところ。▲4六歩は非常に鮮やかでこれによって先手の歩切れは難しい。あるいは▲4六歩には△2六歩で応対し▲4四歩△同銀▲2六歩の場合はそこで△3七角だったり色々な展開は考えられる。かなり無茶な打ち手で成桂を狙ったのだが角桂換え程度では全く優位に立ててはいなかった。

 

一番ベストだったかもしれないのは△8四歩だったのかと後後に思い返した。何にせよ言える事はこの場面の歩はついて間違いない場面であった。まず先手が手待ちをしている場面で強引に流れを変える必要は考える必要がなかったのかもしれない。

 

風車を考えるときに待つという概念を持てていない棋士は多い。理由を考えたときにそれはメンタルがせっかちに焦るからだろうか。ゆとりを持つと言うか強い信念で打てていれば対局者が手待ち中なのだから引っ掻き回すことを考えるなら攻めないのだから。

 

そのあとの展開だが、一目△4六歩や△4七歩などが考えられる戦局の折り返し場面。
だが意外なことに金澤敏明氏はこの場面で▲2六角の両取りに見える指し手を打つ。落ち着いて考えれば△3八成桂が活きるので両取りとはならないのだが、この当時の金澤敏明氏はこういうことをすることがあった。