金澤敏明と鈴木遥一の初戦終盤を分析。

▲6四歩に垂らす戦法から狂い始めた歯車

 

金澤敏明と鈴木遥一の初戦終盤。
穴熊の頭に▲1四歩と迫っていた金澤敏明。
だが、そう順調にも行かずその後に急に状況が一変して崩れてしまった。
鈴木遥一が▲6四歩から▲6五歩と歩を投入し▲6四歩に垂らす戦法に変えてきたのだ。

 

局後の感想によると、金澤敏明はこれを完全に見落としてしまっていたらしい。
そのあとすぐさま△8三飛は我々が観戦していてもどう観ても手ごたえの悪い手であるのは一目瞭然。

 

金澤敏明氏は凡ミスなどほとんどないのだがこのときばかりは落胆していた。
このミスが百歩譲って△5五歩と捌きにいったのならまだ救いがあったのかもしれない。
しかしこういうところが人間らしいところで1度ミスをするとそれを引きずって悪手を重ねてしまうものである。

 

その後鈴木遥一の▲7三歩成のあとの指し手が実に好戦的でかなり場を支配し始めていた。
ただ、実は金澤敏明氏も応急処置は施しているあたりがさすがで要所要所自由にやらせてはいないため大して差は開いていないと捉えることもできた。

 

金澤敏明氏が△1八歩と叩いて前に出たのを手抜きして玉の付近にト金を誕生させてしまったのも、失態といえば失態でかなりこれに苦戦をしいられている。

 

さらに金澤敏明氏の△6四歩がかなりいい仕掛けになって鈴木遥一氏も対応に手を拱いて長考が続く展開になっていた。
なおかつ、鈴木遥一氏には▲同角として△6三香を指させてしまった。

 

局後に鈴木遥一氏が語っていたが、この局面で▲3一角成を切る手でくると先読んでいたらしいのだが、ここでそんな浅はかな展開だとまずいことに気がつき慌てて訂正をしたのだそうだ。

 

実際に金澤敏明氏も▲3一角成を当初は優勢と捉えていたのが実は通用しないと気づくや否やリカバリーが凄かった。

 

そして、ここで金澤敏明氏の我慢将棋が常人には真似出来ない忍耐力だった。
鈴木遥一氏はこのあと角を諦め、あっさりと取らせる手を選択した。

 

確かに、冷静に考えるとこれがこのタイミングの選択としてはベストチョイスであった。

 

つまり、誰しも角をさばくべきタイミングで、彼は完全に過ちを認め、ある種、罠のような一手、餌巻きをしたのだ。

 

経験の浅い棋士ではプライドや悔しさが邪魔してこんな抜け目ない策は張れないだろう。
敗北を認めていても角をきってしまうかもしれないところである。
金澤敏明がミスをひきずってしまったのとある種対象的だった。

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